当研究室の学術研究者である中村稔先生、長﨑正朗教授が行った研究がプレスリリース発表されました。
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の中村稔教授(NHO長崎医療センター客員研究員・九州大学生体防御医学研究所 学術研究者)と国立国際医療研究センター研究所疾患ゲノム研究部疾患ゲノム研究室長の人見祐基博士らは、日本人のPBCの患者を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS: genome-wide association study)3)から、PBCの発症に関わる日本人特有の遺伝子領域としてPTPN2を同定し、PTPN2の遺伝子発現量の低下がPBCの発症に関与することを世界で初めて明らかにしました。また、PTPN2のプロモーター領域の中に位置する一塩基バリアント (rs2292758)において、発症リスクの高いアレル(rs2292758-T)を持つ患者では、免疫担当細胞(樹状細胞)でPTPN2の発現量が低下することによって、PTPN2によるIFNγシグナル伝達の抑制機構(ネガティブフィードバック機構)が十分に働かなくなりPBCを発症しやすくなることも明らかにしました。このことから、PBCでは、PTPN2~IFNγの間のネガティブフィードバック機構の是正が新しい治療法となる可能性が示唆されました。
本研究は、主に以下の研究組織による全国共同研究として実施されました。
〇 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻肝臓病学講座 中村稔 教授
〇 国立国際医療研究センター研究所疾患ゲノム研究部 人見祐基 疾患ゲノム研究室長
〇 国立国際医療研究センター研究所ゲノム医科学プロジェクト 植野和子 研究員、河合洋介 副プロジェクト長、徳永勝士 プロジェクト長
〇 NHO長﨑医療センター臨床研究センター 相葉佳洋 研究員、小森敦正 難治性疾患研究部長(長
崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻肝臓病学講座医療政策学分野教授)
〇 理化学研究所生命医科学研究センターヒト免疫遺伝研究チーム 河野通大 特別研究員、石垣和慶 チームリーダ
〇 東京医科歯科大学ゲノム機能多様性分野 西田奈央 准教授
〇 九州大学生体防御医学研究所バイオメディカル情報解析分野 長崎正朗 教授
〇 NHO肝ネットワーク共同研究 “PBCの新しい病型分類と創薬のための長期観察研究” (中村班)参加施設(NHO熊本医療センター、NHO呉医療センター、NHO高崎医療センター、NHO九州医療センター、NHO信州まつもと医療センターなど計30施設)
〇 厚生労働省難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班(坪内班、滝川班)参加施設
【ポイント】
● 原発性胆汁性胆管炎(PBC: primary biliary cholangitis)は、厚生労働省により難病に指定された疾患で、中高年に多く見られ、その数は年々増加傾向。
● 日本人のPBCの患者のゲノム解析から、その発症に関わる日本人特有の遺伝子領域(PTPN2:protein tyrosine phosphatase non-receptor を同定。
● PTPN2遺伝子のプロモーター領域に位置する一塩基バリアント (rs2292758)におけるアレルがチミン(T)の人は、シトシン(C)の人と比べPTPN2の発現量が低く、PTPN2によるインターフェロンガンマ(IFNγ)シグナル伝達経路の抑制が不十分なためにPBCを発症しやすくなることを解明。
● PTPN2~IFNγの間のネガティブフィードバック機構の是正が、PBCの新しい治療法の開発に繋がる可能性を示唆。
本研究は、米国肝臓学会の学術誌であるHepatology 10月号に掲載される予定です
(URL: https://doi.org/10.1097/HEP.0000000000000894)。
【プレスリリース本文のリンク】
・長崎大学
・国⽴国際医療研究センター
・九州⼤学